細石器

  細石器

  14,000年前 - 12,000年前    日本列島で細石刃文化隆盛

    3万年ほど前からつづいていたナイフ形石器にかわり、北海道や西日本で細石刃(さいせきじん)とよばれる細石器がつくられるようになった。木や骨に溝をほり、そこに黒曜石などでつくった小さくするどい石刃を一列にさしこみ、大きな刃をもつ鎌(かま)や槍の穂先などにしたのである。このような高度な替え刃式の組み合わせ道具の登場は石器文化の円熟期をしめす。とくに北海道では、大陸からの影響をうけて成立した湧別技法(ゆうべつぎほう)のほか、多様な細石刃製作技法がみられる。細石刃文化は、1万3000年前ごろには日本各地に広がっていった。

  12,000年前 - 前7000年頃    世界各地で細石器文化隆盛

    地域によって時間差があるが、このころ西アジアやヨーロッパ、北アフリカなどで細石器が盛んにつかわれた。細石器の使用は中石器時代の文化の大きな特徴である。日本の細石器(細石刃)文化が発展したのは1万4000年前〜1万2000年前ごろで、これより少しはやい。

    細石器 さいせっき マイクロリスとよばれる小型で細かい打製石器類。フランスの遺跡で発掘された石器資料を日本語訳したもの。世界史的には、旧石器時代末期に出現し、約1万2000年前の中石器時代から新石器時代(→ 石器時代)初め頃に盛んにつかわれる代表的な石器群である。

   II  細石器の二大潮流

    ほぼ全世界に分布し、ヨーロッパ、北アフリカ、西アジアなどの地域では台形や三角形など幾何学形の石刃(せきじん)が特徴的に集中する。一方、シベリアから日本をふくむ環太平洋地域北部ではひじょうに細かい石刃である細石刃とよばれる細石器が隆盛する。

   III  細石器の使用法

  細石刃や細石核、細かい台形石器は、単独で狩猟具や鏃(やじり)、銛(もり)として使用するほかに、くみあわせることでより合理的な道具となった。たとえば、木や骨に溝をほり、そこにするどい石刃をさしこむことで、鎌と同じ機能にしあげたり、刈り入れ具としてもちいた。このようにすれば、刃こぼれや切れ味の低下に対して簡単につけかえられる利点もある。

   IV  日本の細石器文化

    日本の細石器文化としては、北海道中心の湧別(ゆうべつ)技法と、九州の西海技法が細石刃の製作技法として知られる。代表的な細石器の遺跡に、細石器文化研究発祥の地となった長野県の矢出川遺跡(国の史跡)があり、長崎県の福井洞窟では縄文時代草創期の土器群にともなって細石刃や細石核などの細石器が発見され、この石器の一群が縄文時代までのこっていることが確認された。

   打製石器 だせいせっき Chipped Stone Tools 石をうち欠いてつくった石器。磨製石器に対する語。ヨーロッパではフリントや黒曜石、日本では黒曜石、サヌカイト、頁岩などがよくつかわれた。川原などの石の一部をわり欠いて刃部をつくっただけの礫石器(れきせっき)から、剥片(はくへん)を整形してするどい刃をもつナイフ、錐(きり)、鏃(やじり)などにしあげた高度なものまで多種多様な石器がある。

    これらは、石の周囲を欠いてつくった石核石器と、石をうち欠いて剥片をつくり調整加工した剥片石器の2系統にわかれる。石核石器はアウストラロピテクス(猿人)やホモ・エレクトゥス(原人)段階に多くつくられ、両面を調整加工したハンド・アックスがホモ・エレクトゥスによって使用された。尖頭器(せんとうき:槍先など)やナイフ形石器などの剥片石器は旧人段階になってから広く普及した。

打製石器の作り方

     石器の材料は、ヨーロッパでは石英の一種のフリントが有名だが、日本では硬質頁岩(けつがん)、黒曜石、玉髄など多種多様なものがつかわれている。石器製作技術にも石の特徴やつくりたい石器によって、さまざまな技法がある。ここではごく単純化した技法をしめした。右は製品である。ナイフ形石器は現代のナイフのようにもつかわれたが、柄をつけて槍(やり)などになった。彫器は彫刻刀形石器ともいわれ木や角をけずったり彫刻したりするための石器である。尖頭器(せんとうき)は投げ槍や突き槍の穂先となった。

     クロービス文化の尖頭器

   ユタ州北部で出土したクロービス文化の尖頭器(せんとうき)。クロービス文化は尖頭器の発見で、北アメリカで初めて確認された狩猟文化である。ほぼ1万1500年前にさかのぼる。アメリカ先住民は狩りをするとき、これに柄をつけた槍(やり)を直接獲物になげるか、投槍器(とうそうき)をつかって投じた。

   イギリス出土のハンド・アックス

    イギリス南東部で発見された後期アシュール文化のハンド・アックス。ヨーロッパでは後期アシュール文化は15万年前ころから8万年前ころまでつづくが、このころには骨や角といったやわらかいハンマーをつかって、先端が細くつくりだされたハンド・アックスが多くつくられるようになる。

    フリント Flint 細かい結晶が塊状になった石英の一種。灰白色で、石灰岩の中に塊となってみつかることが多い。火打ち石ともよばれる。イギリスのグレートブリテン島およびフランス北部の海岸線にある石灰岩の一種のチョーク層からとれるものが、最高品質とされている。それより質はおとるが、フリントは世界じゅうで白亜紀の石灰岩などから産出する。微小な海綿や珪藻の化石がフリントの中からみつかることから、珪質の海生生物などの遺骸が集積してできると考えられる。→ ケイ酸

    フリントは、はっきりした貝殻状にわれて、するどい角ができる。このため、先史時代の人々は、フリントのかけらを、斧(おの)をはじめ、矢じりやナイフなど武器や切断用の道具としてもちいた。フリントを鉄とうちあわせると火花をだすことができるので、発火道具としてひろく利用されてきた。今日では、おもに高級陶器の材料としてつかわれている。

   オイルライターなどにつかわれる、いわゆる「石」は、希土類元素の合金で、火打ち石とは別のものである。

   フリント製の石器

    日本では石器時代には黒曜石が多くつかわれたが、ヨーロッパではフリントが重要な材料だった。写真は、発掘された石器に復元した木製の柄をつけたもの

  黒曜石 こくようせき Obsidian    

  
黒っぽい、半透明のガラス質の火山岩(→ 火成岩)で、化学的成分は流紋岩とほぼ同じである。とけたマグマが地球表層にむかっておしあげられ急速にひやされるため、内部のイオンが結晶化する時間がなく、ガラス質になる。ふつうは黒色であるが、赤や茶色のものもある。割りやすく、成形しやすいため、先史時代の人はこれで武器や道具をつくっていた。

黒曜石

    黒曜石は加工が比較的容易なため、昔から武器や道具につかわれていた。おもな構成元素はどこで産出したものでもほとんど同じだが、わずかにふくまれる微量元素が産地によってことなることがある。そのため、どこの火山から産出されたものかを正確に知ることができる。考古学者は、昔の物資の流れをつきとめるためにこれを利用している。

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