白山

   白山

   白山 はくさん 石川県と岐阜県の県境に位置する成層火山。両白山地北部の主峰で、最高峰の御前峰(ごぜんがみね。標高2702m)と剣ヶ峰・大汝峰(おおなんじがみね。2684m)の「白山三峰」をふくめた山体の総称。広義には南5kmにある別山、さらにその南2kmの福井県境に近い三ノ峰をあわせて「白山五峰」ともよぶ。その優美な山容は、富士山・立山とともに古くから「日本三名山」「日本三霊山」としてあがめられてきた。深田久弥の「日本百名山」のひとつ。

白山の山頂部、左の剣ケ峰と右の御前峰。写真にみられる翠ケ池(みどりがいけ)など、白山は15個の火口群をとどめる。Encarta Encyclopedia世界文化フォト/(株)MOフォトス 森田敏隆

   約30万〜40万年前の加賀室火山(かがむろかざん)が開析されたあと、10万〜14万年前に古白山火山が噴出、さらにその上に新白山火山がつくられた(→ 火山)。大汝峰は古白山火山の南斜面の一部がのこったもので、御前峰・剣ヶ峰は新白山火山の頂上部分にあたる。平安時代初めの835年ごろから8〜9回の小規模な噴火記録がある。小火砕流が発生したとされる1554年(天文23)の噴火口跡は現在、翠ヶ池(みどりがいけ)となっている。山頂付近には8カ所ほどの火口湖・火口跡があるが、79年(天正7)の噴火を最後に目立った活動はみられない。

  古くは「しらやま」とよばれ、名のとおり夏でも残雪が多く、雪渓もあちこちにみられる。弥陀ヶ原・室堂平や稜線近くはクロユリ・コバイケイソウ・ハクサンコザクラなど高山植物の宝庫として知られる。「ハクサン」を冠する高山植物は約30種にのぼるという。山腹にはブナの原生林やダケカンバがしげり、山頂近くはハイマツ帯におおわれる。特別天然記念物のニホンカモシカが生息し、イヌワシ・ツキノワグマ・ニホンザルなど鳥獣の数も多い。

  奈良時代初めの養老年間(717〜723)に僧泰澄が開山したとつたえられ、平安中期には山頂の白山禪定(しらやまぜんじょう)を中心に、加賀白山寺・越前平泉寺・美濃長滝寺(3寺とも現在は、明治の廃仏毀釈で白山神社となっている)の3馬場(ばんば)を拠点にする白山信仰が確立された。3馬場は山頂の管理権をめぐってあらそい、戦国期には一向一揆勢に攻撃されたり、江戸時代には加賀藩・福井藩の領地争いもおきたが、1872年(明治5)に山頂と西側山麓(さんろく)の18カ村は最終的に石川県に属することに決定した。石川県白山市三宮町(さんのみやまち)に本社がある白山比盗_社(しらやまひめじんじゃ)の奥社が室堂平に、奥宮が御前峰山頂に鎮座する。

  白山山頂や西側山腹の弥陀ヶ原・室堂平には、信仰登山の信者や一般登山者が年間2万4000人(1993年)おとずれる。北麓には中宮温泉・新岩間温泉・白山一里野温泉、南西麓には白峰温泉・白山温泉がわく。白山一帯は1955年(昭和30)に国定公園に指定され、62年には477km2が国立公園に昇格指定された(→ 白山国立公園)。白山の北側中腹には、国の特別天然記念物の岩間の噴泉塔群がある。その下流の白山一里野周辺は県立自然公園に指定され、スキー場・国民宿舎があり、岐阜県白川村をむすぶ白山スーパー林道の起点となっている。白峰村にはジュラ紀の手取層群から珪化木や化石が発見され、恐竜の化石を展示した恐竜館や自然休養村などが整備されている。

   白山国立公園 はくさんこくりつこうえん 富山、石川、福井、岐阜の4県にまたがる国立公園。白山を中心にした山岳地帯にある。信仰の山で知られる白山連峰と一帯の貴重な動植物に特色がある。1962年(昭和37)同名の国定公園が国立公園に昇格した。面積は477km2。

岩間の噴泉塔

白山市の尾添川(おぞうがわ)上流にある岩間の噴泉塔群は、ふきだした温泉の炭酸カルシウム成分が噴出口に沈殿し、川沿いに塔状の石灰華を大小20〜30個も形成する。なかには写真のように先端から蒸気とともに熱湯をふきあげるものもあり、形状はさまざまである。1957年(昭和32)国の特別天然記念物に指定された。Encarta Encyclopedia橋本建次/JTBフォト

  標高2500m以上の地域は日本の高山帯の南西限とされ、ハイマツや多くの高山植物が群生する。とくにハクサンの名のついた高山植物は30種におよび、ハクサンコザクラ、ハクサンチドリなどが代表的。高山帯をのぞく大部分はブナ、ミズナラ、トチノキなどの広葉樹林におおわれる。これら原始性豊かな地帯を保護していくため、公園面積の約38%が特別保護区となっている。

  森林地帯は野生動物の良好な生息地で、特別天然記念物のカモシカをはじめ、ツキノワグマ、サル、オコジョなどが生息している。また近年、絶滅が心配されている猛禽(もうきん)類のイヌワシ、クマタカも観察できる。

イヌワシ

全長1m近い大型のタカ科の鳥。石川県の県鳥。東西を問わずもっともワシらしいワシとして勇気と力のシンボルとされ、北アメリカ、ユーラシア、アフリカ北部、中東にかけて広く分布している。しかし、食物連鎖の上位に位置し、広い縄張りを必要とするため、個体数は減少している。日本においてもその数は少なく、天然記念物に指定されている。

  白山は古くから修験道の道場として信仰されてきた。白山信仰は山自体を信仰の対象とし、白山を水源とする手取川、九頭竜川、長良川流域の人々の間で発展した。山頂には加賀国一宮の白山比(しらやまひめ)神社奥宮が鎮座し、現在も参詣(さんけい)におとずれる人が多い。