剥片石器

    剥片石器

   打製石器 だせいせっき Chipped Stone Tools 石をうち欠いてつくった石器。磨製石器に対する語。ヨーロッパではフリントや黒曜石、日本では黒曜石、サヌカイト、頁岩などがよくつかわれた。川原などの石の一部をわり欠いて刃部をつくっただけの礫石器(れきせっき)から、剥片(はくへん)を整形してするどい刃をもつナイフ、錐(きり)、鏃(やじり)などにしあげた高度なものまで多種多様な石器がある。

  これらは、石の周囲を欠いてつくった石核石器と、石をうち欠いて剥片をつくり調整加工した剥片石器の2系統にわかれる。石核石器はアウストラロピテクス(猿人)やホモ・エレクトゥス(原人)段階に多くつくられ、両面を調整加工したハンド・アックスがホモ・エレクトゥスによって使用された。尖頭器(せんとうき:槍先など)やナイフ形石器などの剥片石器は旧人段階になってから広く普及した(→ ムスティエ文化)。

   ムスティム文化

   ムスティエ文化 ムスティエぶんか Moustier 23万年前から3万5000年前ごろの中期旧石器時代(→ 石器時代)の文化。フランスのドルドーニュ地方にあるムスティエ洞窟(どうくつ)を標準遺跡とする。

   旧石器時代はおおまかに前期、中期、後期の3つにわけられ、前期はおよそ23万年前以前、中期は23万年前ごろから3万5000年前ごろまで、後期は3万5000年前ごろから1万2000年前ごろとされるが、ムスティエ文化は中期旧石器時代にあたり、主として西ヨーロッパの旧人(→ ネアンデルタール人)の文化といえる。また、この時代の石器はムスティエ型石器とよばれる。

  石核石器から剥片石器へ

   ムスティエ型石器は、石を打ちかいて芯(しん)の部分を利用する石核石器から、石をわったときにはがれた破片のほうを調整して利用する剥片(はくへん)石器に使用の中心がうつった段階である。ムスティエ文化期の剥片石器は、尖頭器(せんとうき:槍(やり)などの穂先とされる)や削器(刃をもつ切断、けずり器)などが多くつくられた。そのほか、さまざまな形の石器があるが、用途別にはっきりとした作り分けがあまりおこなわれたようすがなく、1つの原石からつくられる石器の量は少ない。

 この点で、次の時代の現生人類(ホモ・サピエンス)にふくめられるクロマニョン人らの石器ほど発達していない。また、石器をつくるための石材はせいぜい30kmほどの範囲から採取されたものにかぎられている。

  ムスティエ文化をになったネアンデルタール人は、死者を埋葬する行動をおこなうようになっていた点で注目される。墓に花をそなえた証拠が提示されたこともあったが、現在ではこれを疑問視する声が強い。

  この文化と類似の文化は地中海沿岸から西アジア、北アフリカにまでおよんでおり、広くそれらを総称してムスティエ文化ということもある。ただし、そのタイプ分けはまだはっきりしていない。